2025-09-08
高校のときの部活の顧問が松村と村松を覚えられない人だった。心優しき村松先輩は顧問から「えーと…村松?松村?」と自信なさげに聞かれるたびニコニコと「村松です〜」と答えていた。けっきょく先輩が卒業するまで顧問が「村松!」と自信を持って言い切ることはなかった。顧問は実直な性格で、いじりをするような人ではなく本当に覚えられなくて申し訳なさそうだったが、私たち部員は「さすがに覚えなよ」とも思っていた。
それから30年近くたった今日、隣の部署の人に話しかけようとした瞬間、ここ2年くらいたまに一緒に仕事をする目の前にいるこの人が村松さんなのか松村さんなのか咄嗟にわからなくなった。ええい、ままよ。
私は賭けた。
「松村さん、いまいいですか?」
そして私は賭けに負けた。